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「某中国地方国立H大学ソフトボール部殺人事件」

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殺されていたのは谷口だった。
自室の中央に大の字で倒れ、後頭部から流れ出た血が赤黒く固まっていた。傷口が大きく凹んでいたため、撲殺と思われる。
吹雪のため携帯電話が繋がらず、車も出せないという事情から、彼らは自分たちで犯人を特定し官憲に突き出そうと決意した。

さて犯人の正体であるが、別荘の戸締りはしていたし、夜間不審な物音もなかったことから、外部犯の可能性は退けられた。犯人は彼らの中にいるのだ。

犯行時刻は昨夜の11時から今朝の7時までの時間。医学的知識のない彼らにはそうとしか言えない。アリバイは誰にも成立しなかった。全員が部屋で眠っていたと主張したからだ。

次に動機の検討となると、さらに実りがなかった。
彼らは皆谷口に殺意を持っていたからだ。
小池は彼女を奪われ、輪島は借りた金を返せず、吉木は過去の醜聞をネタに揺すられていた。
彼らは紳士協定を結び、全員に殺意があったことを確認した上で、この問題へのそれ以上の深入りを避けた。

この殺人における5W1Hを検討していくと、次はHOW、どのようにという問題が持ち上がる。
つまり凶器探しである。
しかし不思議なことにーーーここがこの小説の主眼でもあるのだがーーー成人男性を一撃で撲殺できるような重い凶器は建物内に何一つ発見できなかったのである。