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「某中国地方国立H大学ソフトボール部殺人事件」

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4人の大学生を載せた軽自動車が、吹雪の中国山地を疾走していた。
全ての窓を全開にしているので、雪が吹き込んで車内は酷い有様になっている。
「吉木くん」運転席の小池が叫んだ。茶髪に雪が積もって真っ白になっている。
「君のおじさんの別荘ってのはこの道で合ってるのかい」
「こんなに積もってて分かるもんか。俺だって随分久しぶりなんだ。ここまで10箇所の分岐があったが俺の指示は全部山勘だ」
助手席の吉木もメガネのレンズを真っ白にしたまま叫んだ。
静まり返る車内。
「まぁどうせ」後部座席で迷彩柄のジャンパーを着た谷口がとりなすように声を上げる。
「今さら引き返せやしないんだし、いざとなれば車中泊すればいいだろ」
「俺にはこの寒さが耐えがたい」
隣の輪島が震える声で言った。ピッタリした黒のレザーを身につけた細身の体が震えている。
「どうして窓を閉めて暖房を入れてくれないんだ」
「だから」小池がハンドルを叩く。
「それはもう何度も説明しただろ。こんなむさ苦しい男が4人も乗ってると熱気でガラスが曇るんだよ。このか弱い軽自動車には男4人を載せて山道登りながら暖房ふかすような馬力はないんだよ。あと麓でガソリン入れ忘れたから別荘にたどり着けなくても車中泊なんてできないよ」
再び静まり返る車内。